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2016年11月21日

  • ディレクターズノート

ディレクターズノート006
大宮駅から市民会館おおみやへ

 大宮に着いた。ここは埼玉県最大のターミナル。そして東京と東北地方、信越地方を結ぶ玄関である。

 人混みの中、マムアンの表示看板を見つけるのは至難の技だが、とにかく東口に出てみよう。海外アーティストと一杯やるには大好評のいづみやさんには今は立ち寄らず、まずは大宮タカシマヤ、ローズギャラリーに向かう。ここでは長島確+やじるしのチームが市内全域で展開するプロジェクト《←》の成果を写真で発表している。

 《←》、実にいい。長島から構想を聞いた瞬間から、すっかり虜になってしまった。実はこのプロジェクト、「思い思いの←をつくって、自宅または職場の外に飾ってください。あなたの住む家や、働く場所から現れてくるのはどんな←?」という指示があるだけだ。参加しようと思ったら誰でも参加できる。使い慣れたボールペンで無造作に←を描いてもいいし、趣味の七宝焼きで←をつくってもいい。誰でもがそれぞれのやり方で表現に加われる。しかも全体がばらけることはない。太田省吾の戯曲「↑(やじるし)」シリーズは天井に現れた←に導かれ、家を出て行く人々の物語だが、長島はここから着想を得て独自の世界を作り上げた。←は会期中、止めようもなく増殖していく。

 大宮区役所にも作品があるが、これは後にして、まずは氷川参道をゆっくりと歩きながら市民会館おおみやに向かう。ここの小ホールの地下、今はもう使われていないレストラン部分が秋山さやかとSMFの展示スペースだ。

 秋山さやかの独特な表現はすでによく知られているが、今回彼女は新たな試みを企てた。大宮で滞在制作した4ヶ月余り、彼女は毎日自分に向けて手紙を綴り、投函し続けたのだ。なかにはこんなもんも届くのかと驚くような手製の郵便物もあり、郵便局の方たちが大事な制作協力者だったと彼女は笑う。自分が書き、自分に届いた日々の手紙が、街で出会った色々なものとともに縫い合わされて、なんとも魅力的な空間が出現した。閉鎖され、薄汚れていたレストランの空間が、魔法にかけられたようにキラキラと輝いている。

 投函から配達までには時間がかかる。彼女は時間をも縫い合わせる方法を編み出したのだろう。

 秋山の展示スペースの奥では、SMF(Saitama Muse Forum)がSMF学校を開いている。SMFは埼玉県各地の美術館をキーステーションに、アートをめぐって多くの人がつながっていくためのプラットフォームとしての活動で、これまでにも既存のジャンルにとらわれない自由な視点から多彩なアートプログラムを実施してきた。せっかくさいたま市で開かれるトリエンナーレだから、彼らには是非とも参加してほしかった。

 それにしてもSMF学校とは、いかにもジャンル横断的なSMFにふさわしい。毎週金、土、日を中心に様々なプログラムが展開されている。

 外に出れば、目の前は山丸公園。すでに撤去されたが、ここには9月22日から10月2日まで、磯辺行久の巨大なエアドームが設置されていた。下半分が白、上半分が透明のビニール製で、空気を送り込んで内圧を高めた明快な構造だ。なかに入れば、大宮の都市風景が驚くほど新鮮に変質して見えたものだ。

 大宮地区ではこのような期間限定的な大型プロジェクトがもう一つ用意されている。それが大友良英+Asian Music Networkの《Ensembles Asia Special》で、ユエン・チーワイとdj sniffによるAsian Music Network と大友良英が、アジアとさいたまが交差する3日間を演出する。11月27日には大宮小学校の体育館で、アジアから参加したアーティストが一般の参加者と共に作り上げる大規模な音楽パフォーマンスも行われる。